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脳震盪の危険性について

2024.10.15

■脳震盪を防ぐ方法はありますか■

こんにちは。SOL整形外科の内田です。

このコラムでは、患者さんやそのご家族から寄せられる質問に、整形外科医の視点でお答えしています。

今回のご質問は、脳震盪について。秋の試合が続く時期、サッカーやラグビー、バスケットボールなどのコンタクトスポーツでは特に考えていきたいテーマですね。

質問:

中学生の子どもの親です。ラグビーをしている子どもの試合を見ているとハラハラしてしまいます。とくに脳震盪が怖いのですが、そもそも脳震盪ってどのような状態なのでしょうか。

回答:
ご質問ありがとうございます。

脳震盪、心配ですね。脳震盪は、頭部への衝撃によって脳が揺さぶられることで起こる外傷性の脳機能障害です。ちょっと難しい言葉ですが、機能障害、というのは、うまく機能しなくなってしまう状態、と捉えてください。脳震盪の特徴は、見た目には大きな外傷がなくても、脳が短時間でダメージを受ける点です。特に成長期の子どもたちは脳がまだ完全に成熟しておらず、脳震盪の影響が大人よりも大きくなる可能性もあります。
脳震盪とはなにか、防ぐための道具はあるのか、どのようなときに脳震盪が疑われるのか、もし起きてしまったらどうしたらよいか、を順にお話したいと思います。

 

脳震盪とは何か

脳震盪は、脳自体が頭蓋骨の中で急激に揺さぶられることによって起こる一時的な脳機能の障害です。脳は、頭蓋骨の中で脳脊髄液という液体に包まれていますが、急激な揺さぶりによって液体のクッション能力を超えて神経細胞にダメージを起こしてしまうということです。
症状としては、頭痛、吐き気、めまい、混乱、視覚の乱れなどが起きます。激しい接触、転倒、頭を強く打つなどした場合には特にこのような症状が出ていないかどうか、じっくり観察する必要があります。ラグビー、サッカー、バスケットボールなど接触プレーの多いスポーツではリスクが高まると言われています。

脳震盪を防ぐための道具は?

ヘルメットやマウスガードといった保護具が普及していますが、残念ながらこれらの道具は脳震盪を完全に防ぐことはできないと考えられています。例えば、アメリカンフットボールでは特に頑丈なヘルメットを装着しますが、頭部への衝撃を軽減することはできても、脳が揺れること自体を防ぐことはできません。現在の研究では、脳震盪を確実に予防する道具はまだ開発されていないというのが現実です。
そのため、保護具だけに頼らず、正しいスポーツ技術の習得や、選手の体調管理、危険な場面での即時対応が重要です。また、スポーツ指導者や保護者が脳震盪について正しい知識を持ち、早期発見と適切な対応をすることが、機能障害の予防につながります。

脳震盪が疑われる時のサイン

子どもが脳震盪を起こした際には、いくつかの典型的なサインがあります。以下のような症状が見られた場合、脳震盪が疑われます。(専門的な評価のためのチェックもありますが、そちらは医療従事者でトレーニングを積んだ人でないと使えないものです。以下のような症状がなくても、頭を打ったという事実があれば、その時点ですぐに運動を休ませてください。)

・頭を強く打った後に意識を失う、もしくは一時的にぼんやりする

・頭痛やめまいを訴える

・立ちくらみやバランスが取れない

・短期間の記憶喪失や混乱

 (例:「今どこにいるのか」「今何をしているのか」が分からない)

・吐き気や嘔吐

・視覚や聴覚の異常

 (例:ぼやける、耳鳴りがする)

・不自然な動きや行動

 

これらの症状は試合直後だけでなく、数時間後や翌日に現れることもあります。頭を打った場合には、自宅での生活でも注意深い観察が必要です。

脳震盪が起きてしまった場合の対応

もし脳震盪を疑われる状況に遭遇した場合には、

まず第一に「休ませる」ことが最優先です。脳震盪の疑いがある場合、試合や練習を直ちに中断し、決してそのまま続行させないことが大切です。その後、専門の医師による診察を受け、適切な休息と治療を行うことが重要です。専門の医師、とは、脳神経に関わる診療科の医師のことです。「スポーツ 頭部外傷」「スポーツ 脳震盪」などの言葉で検索してみてください。もしも近くにない場合には、一旦、整形外科などのクリニックに行き、頭を打って不安がある旨を伝えるようにしましょう。近隣の適切な診療科へ紹介してもらうことができると思います。
脳震盪からの回復には個人差があるため、復帰のタイミングは医師の指導に従い慎重に決定します。症状が完全に消える前にスポーツに復帰すると、「セカンドインパクト症候群」と呼ばれる、さらに重篤な脳損傷を引き起こすリスクが高まるため、十分な回復期間が必要です。
脳震盪が一度起きた場合、再度脳震盪を起こすリスクが高まることも知っておくべきです。特に成長期の子どもは、脳がまだ発達途中にあるため、しっかりと休養を取り、再発を防ぐための対策を徹底することが求められます。

どのくらい休養期間をとるべきか

脳震盪からの回復には個人差があるため、一律の休養期間を定めることは難しいですが、科学的なエビデンスに基づいたガイドラインがあります。通常、脳震盪を起こした後の初期休養期間は24〜48時間の安静が推奨されています。この間は、「脳を休ませる」ということですから、身体的にも精神的にも刺激を避けることが重要で、スクリーンを見たり、読書や学業に集中することも避けたほうがいいでしょう。そこから徐々に日常生活に復帰していくことになります。

その後のコンタクトスポーツへの復帰に関しては、症状が完全に消えた後でも、段階的に運動量を増やしていかなければなりません。具体的には、軽い有酸素運動から徐々に強度を上げ、最後にフルコンタクトの練習に戻っていくように、練習メニューを調整していく必要があります。段階を上げる際には、症状が再発しないかの確認も必要です。(この段階的な回復スケジュールは「グラデュアル・リターン・トゥ・プレイ(段階的復帰プログラム)」と呼ばれ、エビデンスに基づいた方法です。専門家の指導のもとで行います。)

国際的な脳震盪に関する専門家のコンセンサスにおいては、脳震盪後のスポーツ復帰までには約7〜10日間かかることが多いとされています。症状が長引く場合はさらに長期間の休養が必要になることもあります。特に子どもや青少年では、回復が成人に比べて遅れる傾向があり、慎重な対応が必要です。

脳震盪の回復には、症状が完全に消えたことを確認するだけでなく、医師の診断を受けて正式に復帰の許可を得るようにしましょう。

まとめ

脳震盪は、特に子どものスポーツ活動において深刻なリスクを伴う問題です。脳震盪そのものを完全に防ぐことは難しいものの、脳震盪に対する正しい知識を持ち、初期対応を迅速に、かつ慎重に行うことで、後遺症や重篤な障害を防ぐことができます。保護者や指導者は子どもの健康と安全を守るために、常に注意深く観察し、万が一の際には適切な対応を心がけることが大切です。

頭を打った、という状況が確認されたら、試合や練習を継続させてはいけません。上記のような症状があれば必ず専門医の診断を受けましょう。そして、もし症状がなくても、あとから症状が出てくる可能性があることをおぼえておいてください。最初の24時間はお子さんの様子を観察してくださいね。そして、少なくとも48時間は、無理せずゆったりと自宅で安静に過ごせるように環境を整えてあげてください。

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